ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)策定への市民社会からの意見書
(2020年1月23日)
【現状と課題】
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企業が人権に関するいかなる取組をしていたとしても、その詳細が開示されなければ説明責任を果たしたとは言えない。指導原則の実施を進めるために、透明性の確保と説明責任を企業に求める仕組みの確立は不可欠であり、非財務情報開示のための施策が極めて重要である。
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ヒューマンライツ・ナウは、2018年、「非財務情報(ESG)開示をめぐる国際的動向と提言」を公表、米国、欧州、アジア・オセアニアの非財務情報開示に関する法制・ルールを比較検討したところ、欧米のみならず、アジアにおいても、非財務情報開示に関する法令や証券取引所におけるルールが、日本よりもはるかに進んだ形態で策定・実施されていることが判明した。ところが、日本では、非財務情報開示に関する法制もなく、証券取引所のルールも策定されておらず、世界の趨勢から著しく取り残されている。(注)
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2015年、年金積立金管理運用独立行政法人(以下、「GPIF」という。)が、そして、2016 年には、企業年金連合会(以下、「PFA」という。)が、責任投資原則(PRI)に署名しているところ、PRI
は、機関投資家が適切な役割を果たすために、投資対象の主体に対してESGの課題について適切な開示を求めており、2014年に策定された「責任ある機関投資家の諸原則」(日本版スチュワードシップ・コード)も「機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を適格に把握すべきである。」として、ESG課題の把握を促している。ところが、コーポレートガバナンス・コードでは、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題の開示が求められているものの、その内容は抽象的であり、2018年の改訂でも前進はないままである。
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英国現代奴隷法の制定を通じた非財務情報開示の法制化が、サプライチェーンにおける強制労働、人身取引、児童労働の根絶に果した世界規模での影響力は極めて大きく、米国カリフォルニア州サプライチェーン透明化法やフランス・デューディリジェンス法、最新のオーストラリアの現代奴隷法等がこれに続いている。
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日本のNAPにおいても非財務情報開示を優先事項として取り入れるべきであり、これはサプライチェーンに関する施策をするにあたっても、公共調達に関する施策を行うにあたっても、必須である。具体的には、既にヒューマンライツ・ナウが前記提言で提言した通り、以下の施策が取り組まれるべきである。
【NAPへの提言】
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コーポレートガバナンス・コードの改訂により、コーポレートガバナンス報告書に開示が求められる非財務情報の記載を拡充する。
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企業内容等の開示に関する内閣府令第3号様式の改訂により、有価証券報告書における非財務情報の開示を実現する。
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英国現代奴隷法、米国カリフォルニア州サプライチェーン透明化法、フランス・デューディリジェンス法、オーストラリア現代奴隷法と類似した立法を検討する。
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公共工事の品質確保の促進に関する法律、公共工事の品質確保の促進に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針、ないし公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針の改正を行い、サプライチェーンも含めたESGの取り組みを明記するとともに、価格以外の評価項目としてESGの取り組みを取り入れる。
(注)『非財務情報(ESG)開示をめぐる国際的動向と提言-ビジネスと人権に関する国別行動計画(National Action Plans)への提案-)』、ヒューマンライツ・ナウ、2018年4月29日
(認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ)