「ビジネスと人権」に関する行動計画の原案に対する意見

一般財団法人CSOネットワーク


Ⅰ.全体

1.【意見内容1】

 国内人権機関設置の検討が必要であることに言及してください。

 特に、第1章3の具体的内容に明記、第2章1(5)、第2章2(4)に関連記述が必要だと思われます。

【理由】

・国内人権機関国際調整委員会が2010年に出したエディンバラ原則では、①ビジネスと人権に関する人権促進・教育・研究に基づく啓発や助言の役割に加え、②企業による侵害事例やその救済などのモニタリング、③被害者からの苦情への対応、④侵害事例の仲介や調停、被害者支援を挙げています。国内人権機関が「ビジネスと人権」に関して果たすこうした機能は、諸外国のNAP策定及び実施において国内人権機関が果たしてきた積極的役割からも明らかです。NAP策定を、国内人権機関の設置に向けた道筋を改めて定める機会とするべきであると考えます。
・日本では司法的救済及び非司法的救済へのアクセスに関して一定の制度があるが、現実には、実効的な執行がなされていないケースのみならず、新たな人権問題が発生した場合には法令の整備がなされていないケースなどのギャップもあり得ることから、人権侵害がなされた場合の是正や被害者の救済のためには人権機関の設置が必要になると考えます。

 

2.【意見内容2】ビジネスと人権に関する関連政策は「整合性の確保」では不十分であり、「政策の一貫性」に基づくものにしてください。

【理由】

 指導原則でもNAPガイダンスでも、一貫した政策とそれを担保する政府内での認識の徹底の努力を求めています。行動計画に「政策の一貫性」を目指すことを明記することが極めて重要になります。

 

3.【意見内容3】人権への「配慮」という表現を「尊重」に変更してください。

【理由】

 「配慮」という表現が多用されていますが、配慮というのは、「心をくばること・良い結果になるよう他人や他の事に対して気を遣う」という意味を持つ言葉です。「したほうがベターだが、しなくてもよい」とも取れることばなので、指導原則が人権への負の影響を特定して対処する人権尊重責任を企業に求めている趣旨を鑑みると、かなり弱いと感じます。ここは「人権尊重」に変更してください。

 

Ⅱ.第1章

1.該当箇所:3(1)

【意見内容1】「社会的に弱い立場に置かれ、排除されるリスクが高い集団や民族に属する個人」を重視することを記述してください。

【理由】

 「社会全体の人権の保護・促進」では、社会的に弱い立場に置かれる人の人権の保護・促進が見逃される懸念があります。指導原則は「一般原則」の中で、「社会的に弱い立場に置かれ、排除されるリスクが高い集団や民族に属する個人の権利とニーズやその人たちが直面する課題に特に注意を払う」ことを求めています。この点をしっかりと書き込むことが重要だと考えます。

  

Ⅲ.第2章 行動計画

1.該当箇所:2(2)ア

【意見内容1】「これまでの取組として」の段落に、以下の内容を追加してください。

  • 「公共工事の品質確保の促進に関する法律(平成17年法律第十八号)」に基づき価格以外の要素を評価する総合評価方式が導入され、地方公共団体においては、地域の安心・安全への配慮等、地域のニーズに則した要素が評価されるようになってきている。
  • また「公共工事の品質確保の促進に関する法律の一部を改正する法律(令和元年法律第三十五号)」により、働き方改革への対応が規定されるとともに、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案(令和元年法律第三十号)」があわせて改正され、長時間労働の是正(工期の適正化等)や現場の処遇改善建設業の働き方改革が促進されている。

参照:

国土交通省品確法の改正について:

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk1_000177.html

国土交通省建設業法、入契法の改正について:

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk1_000176.html

 

【理由】人権に関わる公共調達の法制度において、近年の品確法をめぐる国土交通省の取り組みは、公共工事の規模による影響の大きさや民間への波及効果に鑑みて、記載は不可欠であると考えます。

 

2.該当箇所:2(2)ア

【意見内容2】具体的措置に以下を追加してください。

 新・担い手3法(公共工事の品質確保の促進に関する法律、建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律)に関する取組

参照:国土交通省新・担い手3法(品確法と建設業法・入契法の一体的改正)について

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk1_000175.html

【理由】上記、品確法と同様、記載は不可欠であり、この取り組みを今後進めていくことが必要と考えます。

 

3.該当箇所:2(2)ア

【意見内容3】具体的措置に以下を追加してください。

  • 地方公共団体は、公共調達を地域の持続可能性を高める政策手段と位置付け、人権への配慮と地域のニーズに則した取り組みを推進する。
  • 公共調達における人権の配慮及び持続可能性を高めるために、公共調達に関わる行政職員の能力強化を図る。また、必要に応じて、公共調達業務をサポートする仕組みを構築する。

【理由】

持続可能な公共調達を推進しているUN Environmentによれば、社会・環境・経済における統合的な取り組みが必要とされている。女性・障害者への配慮のみならず、より包括的、統合的な取り組みを可能とするアクションプランが必要と考えます。

参照:UN Environment Program, Sustainable Public Procurement:

https://www.unenvironment.org/explore-topics/resource-efficiency/what-we-do/sustainable-public-procurement

欧州では、公共調達関係者による、持続可能な公共調達に関する情報交換のためのネットワークが存在し、行政職員の能力強化が図られている。

参照:Procure +network: https://procuraplus.org/home/

スウェーデンでは持続可能な公共調達の取り組みを公営企業がサポートする仕組みも存在する。

参照:CSOネットワーク(2019)調査報告書「持続可能な地域社会のための公共調達ガイドブック~サステナブルな地域づくりと組織に求められる12の課題」P.58

https://www.csonj.org/images/a17bba318f648a62812b0f9809ed95de.pdf

 

4.該当箇所:2(3)イ

【意見内容4】中小企業に対して、その特性に即した以下の内容を追加してください。

 中小企業はサプライチェーンを担う主体として、大企業との不公正な取引に晒されると同時にサプライチェーン上の人権課題を解決していく主体でもあるという特性を記述する必要があります。

【理由】

 中小企業のサプライチェーン上の特性を踏まえた行動計画にすることによって、中小企業における「ビジネスと人権」への実効的な取組が可能となると考えます。

 

5.該当箇所:2(3)イ

【意見内容5】具体的措置に、指導原則にもとづき、中小企業の特性に沿ったガイダンス文書の作成を盛り込むことが望まれます。

【理由】

 中小企業が主体的にビジネスと人権に取組むことを可能にするためには、ポータルサイトなどの情報提供や普及だけでは不十分であり、指導原則に基づく人権デュー・ディリジェンスを促進するためのガイダンスが必要となると考えます。

 

Ⅳ.第4章 行動計画の実施・見直しに関する枠組み

1.該当箇所:1

【意見内容1】「行動計画の実施に関する枠組み」を、各施策の担当府省庁も含めて具体的に記述してください。

【理由】

 第4章では「行動計画の実施に関する枠組み」を記述する必要があります。具体性のない不十分な記述にとどまっていると考えます。それぞれの「具体的な措置」をどの府省庁が実施するのかを明確に示す必要があり、それなくしてどのように実行するのでしょうか。NAPガイダンスも「関係政府機関」(Relevant Government entity)を示すよう求めています。

 

2.該当箇所:2

【意見内容2】行動計画の期間を5年ではなく3年にしてください。

【理由】

 「ビジネスと人権」をめぐる世界の動きは激しく、日々新たな人権問題が発生し、その影響を受けるのは市民であり、企業もまたその影響に対しての対応を求められることになります。その結果、ギャップ分析や優先分野の特定なども変化を迫られ、NAP原案も変化していく必要があります。行動計画期間を3年とすることが適切と考えます。

 

3.該当箇所:3及び4

【意見内容3】

 「行動計画の実施状況の確認」及び「関連する国際的な動向及び日本企業の取組状況の意見交換」については、その「結果について」だけでなく、「確認」と「意見交換」それ自体のプロセスにステークホルダーがモニタリンググループとして関与する中で行うことが明確になるように記述を改めてださい。

【理由】

 NAPガイダンスにおいても、実施状況のアセスメントのプロセスには関係するステークホルダーとの協議が含まれるべきであるとしています。マルチステークホルダーによるモニタリンググループの設置を検討すべきだと考えます。

 

4.該当箇所:3

【意見内容4】「実施状況」を評価指標によって確認することを明記してください。

【理由】

 「行動計画の実施状況を、毎年、関係府省庁連絡会議において確認する」と記述されているだけで、「具体的な措置」の実施状況を確認する際の具体的な基準が明記されていません。これでは公正で客観的な「確認」が担保できないと思われます。行動計画の実施状況を評価指標によって確認することを明記するとともに、「2020年半ば」のNAP公表までに具体的な評価指標を策定する必要があります。NAPガイダンスにおいても、「NAPの改定は、企業に関連する人権への負の影響を防止・軽減・救済するために既存のNAPが実際にどの程度効果があったかについての徹底した評価に基づくべきである」とし、「実施指標」(Performance indicators)を示すよう求めています。

 

5.該当箇所:3

【意見内容5】「実施状況の確認」の結果を公表することを明記してください。

【理由】

「実施状況の確認」のプロセスにおいても透明性は不可欠の基準です。NAPガイダンスにおいても、「政府は、評価の結果を、アセスメントとともに一般に公開すべきである」としています。