「ビジネスと人権」に関する行動計画の原案に対する意見

サステナビリティ消費者会議


Ⅰ.全体

1.【意見内容1】

 国内人権機関の設置を検討することが必要であることを明記してください。

 特に、第1章3の具体的内容に明記、第2章1(5)、第2章2(4)に関連記述が必要だと思われます。

【理由】

 日本では司法的救済及び非司法的救済へのアクセスに関して一定の制度があるが、現実にはそれらが実効的に執行されないギャップもあり得ること、さらには、たとえば新たな技術に伴う人権侵害など日々新たな人権侵害なども発生し得ることから、現在、一定の制度があるとすることでは不十分であり、人権機関の設置によって問題解決を目指す必要があると考えます。

 

2.【意見内容2】全体を通して、表現を「今後、〇〇について実施する」、「〇〇を検討する」といった内容および表現に改めてください。

 

【理由】 

 NAPは国の「行動計画」であることから、現在ほとんどが現状整理としての記載になっています。「行動計画」としての必要要件を満たすことが必要と考えます。

 

Ⅱ.第1章

1.該当箇所:1(8)

【意見内容1】ビジネスと人権に関する関連政策は「整合性の確保」では不十分であり、「政策の一貫性」に基づくものにしてください。

【理由】

 原案の第1章には、これまで関係省庁が個別に実施してきた人権の保護に資する措置を「ビジネスと人権」の観点から整理したとされ、関係省庁間の政策の整合性の確保を強化したとありますが、それは行動計画を策定する前提の作業と考えられます。指導原則に沿った「政策の一貫性」にもとづく行動計画にしていく必要があると考えます。

 

2.該当箇所:3

【意見内容2】国の人権保護義務を明記した記載にしてください。

【理由】

 国は、責任ある企業活動の促進を図ることにより、人権の保護・促進に「貢献」するとの記述になっていますが、国の人権保護義務の履行を明確したものであることが必要です。指導原則では、国の保護義務を果たすための運用原則において、定期的に法律の適切性を評価し、ギャップがあればそれに対処することや人権尊重に関する企業への指導なども明記していますが、他の章も含めてそのような記述は全く見当たりません。

 

3.該当箇所:3(1)

【意見内容3】「社会全体の人権の保護・促進」ではなく、「社会的に弱い立場に置かれ、排除されるリスクが高い集団や民族に属する個人」を重視することを記述してください。

【理由】

「社会全体の人権の保護・促進」では、社会的に弱い立場に置かれる人の人権の保護・促進が見逃される懸念があります。指導原則は「一般原則」の中で、「社会的に弱い立場に置かれ、排除されるリスクが高い集団や民族に属する個人の権利とニーズやその人たちが直面する課題に特に注意を払う」ことを求めています。

 

Ⅲ.第2章 行動計画

1.該当箇所:2(1)ウ

【意見内容1】「新しい技術の発展に伴う人権」について、具体的な人権保護・尊重・救済の枠組みを検討することを明記してください。

【理由】

 原案では現状の政策が記載されているにすぎず、具体的措置においても人権の問題について「議論」することが中心に記述されています。人権の保護・尊重・救済の枠組みを整備することが必要と考えます。

 

2.該当箇所:2(1)エ

【意見内容2】「消費者の権利・役割」ついて、本文も具体的な措置も消費者の役割に重点を置いた記載になっており、消費者の権利を明確にした記述を追加してください。

【理由】

 消費者の権利については、その必要性も重要性もいまだ企業や消費者に根付いているとは言い難く、消費者の安全、選択、適切な情報、教育、意見の反映、救済などの消費者の権利を尊重した事業活動の促進とともに、現在の消費者政策の一層の充実が求められます。

 そこで、具体的措置として、

(ア)の「エシカル消費の普及・啓発」については、SDGs目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」の実現には大変重要ですが、そこでは消費者の役割が強調され、消費者の権利の尊重の重要性が明確になっていません。NAPの本来の目的を考慮するならば、消費者の権利を明確にした記述が必要と考えます。

(イ)消費者志向経営の推進」について、企業の人権尊重の具体化として、消費者の権利の尊重を明記していくことが必要であると考えます。

 

(ウ)「消費者教育の推進」について、消費者の役割のみならず消費者の権利が重要であることを明確にした上で実践していくことを明記していく必要があります。

 

3.該当箇所:2(2)エ

【意見内容3】人権教育について、現状確認の記述になっていることから、今後、関係府省庁、企業、市民社会,法曹界等が一層の役割を果たしていくことに改めてください。

【理由】

 

企業の事業活動において人権が尊重されるかどうかは、個人が、国・地方自治体や企業等の組織の一員として、さらには一人の市民・消費者として、指導原則で求められている人権の内容および枠組みを理解して、政策を実施する、事業活動を実施する、さらには市民・消費者として行動することにかかっていると考えます。したがって、政府はそれぞれの主体に対して、あるいは各主体が、現在求められている人権の内容および指導原則の枠組みについて、広く体系的に人権教育を進めていく必要があります。そして、政府はこれらの取組みを促進するために、地方自治体、学校、市民・消費者団体、国際機関などと連携をしていく必要があると考えます。

 

4.該当箇所:2(2)エ

【意見内容4】具体的措置について、以下の内容を追加してください。

(ア)公務員に対して、「周知」だけではなく「教育」も含める

【理由】

(ア)「周知」が求められることは言うまでもありませんが、現在の課題は、国際的に認められている人権についての理解が十分ではないことから、情報の提供以上に、根本的には「教育」が不可欠と考えます。

 

5.該当箇所:2(3)アおよびカ

【意見内容5】具体的措置として、以下を追加してください。

(ア)業界団体を通じた、企業に対する人権侵害等についての是正

(カ)人権への負の影響についての情報を含む開示の促進

【理由】

・指導原則に基づく人権デュー・ディリジェンスの促進について、国の人権保護義務の履行として、「周知」、「啓発」に加えて、「指導」も必要であることは指導原則にも盛り込まれていることから、是正への取組みも重要と考えます。

 

・消費者にエシカル消費を促すには消費者・市民への情報提供が不可欠です。環境報告ガイドライン等に即した情報開示のなかに、事業活動によって生じる人権や環境への負の影響についても含むなど、企業の主体的で積極的な情報開示を促進していくことが必要と考えます。なお、報告媒体が環境報告ガイドラインと限定的な記載になっていますが、本来は人権についての報告及びそれらを含むガイドラインだと考えます。

 

Ⅳ.第4章 行動計画の実施・見直しに関する枠組み

1.該当箇所:2

【意見内容1】行動計画の期間を5年ではなく3年にしてください。

【理由】

 「ビジネスと人権」は既存の人権問題のみならず、新たなビジネスによる新たな人権問題の浮上、さらには消費者・市民の意識の変化など世界・日本の動きは激しく、その影響を受けるのは市民、特に社会的弱者ですが、企業もまたその影響に対しての対応を求められることになります。その結果、国もギャップ分析や優先分野の特定などによりも行動の変化を迫られることから、NAP原案も変化していく必要があります。行動計画期間を3年とすることが適切と考えます。

 

2.該当箇所:3及び4

【意見内容2】

 「行動計画の実施状況の確認」及び「関連する国際的な動向及び日本企業の取組状況の意見交換」については、その「結果について」だけでなく、「確認」と「意見交換」それ自体のプロセスにステークホルダーがモニタリンググループとして関与する中で行うことが明確になるよう記述を改めてださい。

【理由】

 NAPガイダンスにおいても、実施状況のアセスメントのプロセスには関係するステークホルダーとの協議が含まれるべきであるとしています。マルチステークホルダーによるモニタリンググループの設置を検討すべきだと考えます。

 

3.該当箇所:3

【意見内容3】「実施状況の確認」の結果を公表することを明記してください。

【理由】

「実施状況の確認」のプロセスにおいても透明性は不可欠の基準です。NAPガイダンスにおいても、「政府は、評価の結果を、アセスメントとともに一般に公開すべきである」としています。