「ビジネスと人権」に関する行動計画の原案に対する意見
公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本
<全体に対する意見>
本行動計画原案についての意見募集を日本語に限定すべきではない。 また、行動計画は、最低でも英語版を日本語と同時期に公表すべきである。
理由:日本企業や政府が関わる事業活動のステークホルダーは国内外に存在してい るため、日本語に加えて主要な他言語、少なくとも英語での対応を可能にし、幅広いステークホルダーの参加を促すべきである。
<第一章:1(はじめに:原案1P)に対する意見>
企業の事業活動によって影響を受ける人びとの人権を保護する義務は、一義的には国にあることを明記し、国として権利保持者の人権保護を第一に考えているという姿勢や、国が積極的に企業や政府機関に要請し、人権保護を徹底していくという姿勢を明確 に示すべきである。
理由:本行動計画の策定は、権利保持者の保護を第一の目的とするべきである。そして、人権保護の義務は国にあるという認識を明確に示すべきである。
<第一章:4(行動計画の策定プロセス:原案5P)に対する意見>
ベースラインスタディをふまえたギャップ分析がこれまでに行われていないため、行動計画の実施・見直しのプロセスにおいて、ギャップ分析を行うべきである。
理由:行動計画の策定および実施・見直しのプロセスを通じて明らかになった人権への負の影響について、現行の法規制や制度により予防、軽減、救済などの対応が可能かどうかを確認する必要がある。
<第二章:2(分野別行動計画:原案7P)に対する意見>
「(1)横断的事項」および(2)~(5)の各取り組みの「具体的な措置」に記載の対応の内容について、主管省庁や対応時期を特定するとともに、実行性を測るための指標等示すべきである。
理由:本原案が「行動計画」であるならば、計画内容である行動について具体的に示し、すべてのステークホルダーが計画の実行主体を把握できるようにし、計画実施の時期や状況の確認ができるようにすべきである。
<第二章:2(1)ア(労働:原案7P)に対する意見>
労働者の権利の保護を第一に考え、弱い立場に置かれている労働者、特に外国人労働者や外国人技能実習生等とその家族のための法的保護の強化を「具体的な措置」に含めるべきである。
理由:移住労働者について、2017年11月の国連普遍的・定期レビュー(UPR)に際するアムネスティ・インターナショナルからの日本政府への勧告に記しているとおり、「すべての移住労働者とその家族の権利の保護に関する条約」を批准し、移住労働者と その家族の権利の保障のため、特に差別なく働くことができるようにするための適切な 措置を取ることを求める。また、移住労働者の人権を侵害したと疑われる雇用者に対して刑事訴追も含めた対応をすることを求める。
<第二章:2(1)ウ(新しい技術の発展に伴う人権:原案9P)に対する意見>
・違法な監視から保護される権利をすべての人に対して国が保障するべきである。そのための措置を「具体的な措置」に含めることを求める。
理由:2017年11月の UPR に際する日本政府への勧告に記したとおり、監視や個人情報の収集を可能とする技術が、プライバシーの権利等の侵害や治安維持等を理由とした不当な監視や情報収集につながらないよう、権利保持者の保護の観点から適切な対策を行うべきである。
・人工知能(AI)の機械学習などの新しい技術の使用による人権侵害からの保護についての対策を「具体的な措置」に含めるべきである。
理由:新技術による利便性の向上と同時に、差別の助長といった問題が指摘されており、プライバシーの権利、表現の自由の権利、文化的生活に参加する権利、法の下の平等、個人情報保護などの侵害のおそれが懸念される。国や企業が新技術を使用する際には、人権への影響を評価して、負の影響を予防し、または軽減するための措置を義務付けるとともに、人権侵害がおきた場合の救済へのアクセスを「具体的な措置」として保障するべきである。
<第二章:2(1)オ(法の下の平等:原案10P)に対する意見>
職場での差別やハラスメント防止のため、人種差別、民族・国籍差別、歴史的差別をはじめとするあらゆる差別を対象とする包括的な差別禁止のための法的な措置を「具体的な措置」に含めるべきである。
理由:2017年11月の UPR に際する日本政府への勧告に記しているとおり、上述のような差別に加え、性的指向や性自認によるものを含めた、あらゆる差別を対象とする包括的な差別禁止法の導入を求める。
<第二章:2(人権を保護する国家の義務に関する取組:原案13P)に対する意見>
・政府の働きかけにより企業の自主的な対応を求めるとともに、政府は、企業による人権デューディリジェンスや情報開示の義務化の検討を早期に開始すべきである。
理由:一定の規模の事業所、あるいは、一定の業種の企業に対して、人権デューディリジェンス、または、その実施についての情報開示を義務化する法規制が欧米を中心に進んでいる。日本でも、企業の義務としての人権デューディリジェンスや情報開示の法制化を検討すべきである。
・国境を越えて日本企業が引き起こす、または、助長する人権侵害についての責任や、日本企業の国内外の子会社による人権侵害についての親会社の責任を追及できる法規制を検討すべきである。
理由:人権条約上、国は自国の領域および管轄権の外にいる人びとの権利をも保護する義務 がある。日本の法的管轄外の場所で起きた人権侵害や、子会社による国外での人権侵害など、負の影響を受ける人びとが救済措置へアクセスすることが困難なケースについても、権利保持者の人権保護が可能となるような施策を国は取るべきである。
<第二章:2(2)ア(公共調達:原案13P)に対する意見>
公共調達における取引の条件として、人権デューディリジェンスの適切な実施とそれについての情報開示を求めることを「具体的な措置」に含めるべきである。
理由:公共調達における取引では、取引先の企業で働く労働者の人権状況や、取引対象の製品・サービスのサプライチェーンの人権デューディリジェンスの実施状況の確認を、国から企業に要請するだけでなく、国が自ら行うべきである。
<第二章:2(3)ア(国内外のサプライチェーンにおける取組及び「指導原則」に基づく人権デュー・ディリジェンスの促進 :原案16P)に対する意見>
人権デュー・ディリジェンスの実施および情報開示について、国が企業に求める対応の具体的な内容を明確に示すべきである。
理由:国として企業に求める内容を具体的に示し、実施状況を判断する指標を示すことが 重要である。こうした情報提供や啓発は、企業側である業界団体等に任せるのではなく、人権保護の義務を有する国が主導すべきである。
<第二章:2(4)(救済へのアクセスに関する取組:原案18P)に対する意見>
非司法的救済措置として、国内人権機関の設置に向けた行動を「具体的な措置」に含めるべきである。
理由:「OECD多国籍企業行動指針」に基づく日本NCPは、実効性に欠け、権利保持者の保護の観点からは十分に機能しているとは言えない。2017年11月のUPRに際する日本政府への勧告に記しているとおり、パリ原則に即した国内人権機関の設置に向けて国が直ちに行動することを求める。
<第四章:3,4(ステークホルダーとの対話:原案20,21P)に対する意見>
行動計画の実行性を確認するために、第三者によるモニタリングを実施すべきである 。また、実効性の確認プロセスには、権利保持者と関わる市民団体等のステークホルダーが参画すべきである。
理由:原案では、「行動計画の実施状況を,毎年,関係府省庁連絡会議において確認」し、「その結果について、ステークホルダーと対話の機会を設ける」とあるが、「確認した結果」だけでなく、行動計画の実施状況についても、ステークホルダーと共有して協議すべきである。そして、ステークホルダーから受けた指摘を現状のギャップ分析に活用すべきである。
以上
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