「ビジネスと人権」に関する行動計画の原案に対する意見

児童労働ネットワーク


この度は、「ビジネスと人権に関する行動計画原案」につきまして、意見提出の機会をいただき、ありがとうございます。今回のNAP策定プロセスにあたっては、児童労働ネットワークとして、ベースライン意見交換会においても情報提供をさせていただきました。また、児童労働に関わる政策提言を行ってきており、2018年に行った署名活動では、72万筆もの署名が集まり、既に厚生労働政務官、外務副大臣へ要請と共に一部提出済みです。添付資料として、署名用紙、また要請内容を送付させていただきます。

 

その署名内容に基づく要請内容を中心に、パブリックコメントとして意見を7点お送りします。ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます。

 

(1)横断的事項 イ.子どもの権利の保護・促進の<具体的措置>(p9)について

 

【意見1】 (ア)「・国際機関等への….」への修正

 

・児童労働の撤廃に向けて、Alliance8.7への加盟、及びそれを含む国際機関等への拠出や技術協力を通じて、支援していく。

 

(理由)

Alliance8.7は、SDG8.7達成のためにILOが中心となり設立した多数の関係機関による国際的パートナーシップで、現在17のパスファインダー国と225のパートナー団体が登録している。このような国際的ネットワークに加盟することは、ビジネスと人権の文脈でも児童労働への取り組みを進める諸外国との情報交換や連携を図る上でも重要である。また、SDGsアクションプラン2020にも児童労働の取り組みについて連携を重視した記述があることから、ここでも言及すべきと考える。本件は児童労働ネットワークの署名活動の要請事項のひとつである。

 

【意見2】<具体的措置>に新たに以下を追加

 

(カ)我が国の児童労働(主に子どもの危険有害労働)への取り組み強化

SDGsの目標である、2025年までの児童労働の撤廃の達成を目指し、最悪の形態の児童労働(ILO182号)条約に則った行動計画の策定、調査や労働基準監督の強化も含めた、国内の児童労働、特に最悪の形態の児童労働の撤廃に向け、取り組みを強化していく

 

(理由)

子どもに対する暴力において、国際的及び国内的な取り組みの両方を推進しているように、ビジネスと人権にかかわる子どもが関わる課題として認識されている児童労働においても、国際的及び国内的な取り組みを推進すべきである。また、我が国も批准しているILO182号条約に則り、児童労働の特定、また関係者と協議した上での行動計画を策定すべきである。

 

(2)人権を保護する国家の義務に関する取り組み ア.公共調達について

 

【意見3】<具体的措置>(p.19)に以下を追加

 

人権に配慮した包括的な公共調達ルールの方針策定

我が国として、指導原則で示されている運用上の原則に則り、国家の義務遂行、および企業の人権デューデリジェンス促進の具体的措置として、人権に配慮した包括的な公共調達に関する方針策定、ガイドライン又は公契約法等の制定を検討すべく、持続可能な公共調達に関する検討会を設置する。

 

(理由)

第一の理由としては、指導原則の「一般的な国家の規制・政策機能」において、「企業に人権尊重を義務づけるもしくはその効果のある法律を施行し、定期的にその法律の妥当性を審査し,隔たりがある場合は対処すること」また、「国と企業の連携」においても、「6.国家は,その商取引の相手方企業の人権尊重を促進すべきである。」 と記述があることを指摘する。我が国としても、これらの指導原則で示されている運用上の原則に則り、法規制に基づく企業の人権尊重を行うべきである。

 

第二の理由として、原案の第3章政府から企業への期待表明において、「国際的なスタンダードを踏まえ、人権デューデリジェンスのプロセスを導入することを期待する」とあるが、この期待を具体的に示すものとしての法規制の検討が、本原案にどこにもないことは、大きな問題と考える。これを具体的に示すのであれば、公契約時における人権デューデリジ ェンスの義務化は既に各国が導入しているものであり。また企業にとっては人権デューデリジェンスを導入するインセンティブとなる。政府の責任として、企業が人権デューデリジェンスを実施するための環境整備として、ガイドライン及び法規制の検討をはじめるべきである。その際、UNEPを中心とした「持続可能な公共調達(SPP:Sustainable Public Procurement)」に関連する議論や先行事例も参照すべきである。

 

(3)人権を尊重する企業の責任を促すための政府による取り組み(p.17)について

 

【意見4】ア.国内外のサプライチェーンにおける取り組み及び「指導原則」に基づく人権デューデリジェンスの促進 の<具体的措置>の(ウ)と(エ)の間に以下の項目を追加

 

(エ)企業の人権デューディリジェンス促進への政府からの期待の具体的行動としての、デューディリジェンス義務化を含む法整備について、検討を開始する。

 

(理由)政府として企業にデューデリジェンスの実施を期待するのであれば、最も明確な期待表明方法は法整備である。それにより、企業が何を求められているのかがクリアになる。欧州では義務化の流れが進んでおり、サプライヤーとしての日本企業の国際的競争力の維持も鑑み、このような法整備を行うことは、いずれ必要になるのではないか。本原案にその記述がないとなると、今後5年間は検討すらされない、ということになりかねない。これはこの文書全体にあてはまることだが、行動計画は、現在行っていることの羅列ではなく、今後行うことの計画であるべきでる。そのためにも、検討を開始する、という文言は必要ではないか。

 

【意見5】<具体的措置>に以下を追加

 

(ク)サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身取引、及び現代の奴隷制の撤廃に向けた具体的措置の検討

 

 G20大阪サミット2019の首脳宣言及び雇用労働大臣宣言において示したコミットメントを実行に移すため、G20ブエノスアイレスサミット2018におけるG20 労働・雇用大臣会合で採択された付属文書「児童労働、強制労働、人身取引、及び現代奴隷撤廃のための戦略」に基づき、国内で必要な施策および国際協力について検討する。

 

(理由)

我が国がホストしたG20でのコミットメントを国内外で着実に実行していくべきである。 付属文書「児童労働、強制労働、人身取引、及び現代奴隷撤廃のための戦略」には以下6つの戦略が記されており、特に2、3、4については、本原案にも包含されている公共調達、サプライチェーンについての言及がある。

付属2 児童労働、強制労働、人身取引、現代奴隷撤廃のための戦略

  1. 社会保護、公正で適切な賃金、教育と訓練への参加、農村部の経済発展を促進する。
  2. 労働基準へのコンプライアンス向上のために、政府調達を活用する。
  3. グローバル・サプライチェーンにおけるデューディリジェンスと透明性を促進する。
  4. 持続可能なサプライチェーンを進めていくための措置を講じる。
  5. データの収集と共有を図る。
  6. 民間セクターや市民社会組織などとのソーシャル・ダイアログや新しいパートナーシップを培っていく

また、2017年の児童労働の持続的な撤廃世界会議(ブエノスアイレス)においても、ブエノスアイレス宣言で政府の役割として以下が宣言文に含まれている。

 

児童労働、強制労働および若年雇用に関するブエノスアイレス宣言

3.6児童労働と強制労働を予防するために、サプライチェーンに関して政府が予防的政策を 採択、実施する検討を、関係するステークホルダーを意味のある形で含める形で、行うことを促す。それは、調達方針の評価とモニタリング、またそれぞれのニーズに合わせて、実施や施行に関する有望なベストプラクティスの共有を行うことを含む。

 

第4章 行動計画の実施・見直しに関する枠組み について

 

【意見6】

 

3.行動計画の実施状況を、毎年、関係府省庁連絡会議において確認する。また、その結果について、ステークホルダーと対話の機会を設ける。

 

を以下に変更

 

3.行動計画の実施状況を、毎年、ステークホルダーの出席のもと、会議を開催して確認し、対話の機会を設ける。

 

(理由)NAPの策定から改定までのすべてのプロセスで包摂性が必要。結果報告だけでは十分ではなく、実施状況のアセスメントのプロセスでも関係するステークホルダーとの協議が含まれるべきであるとガイダンスは指摘している。また、マルチステークホルダーによるモニタリンググループの設置を検討すべき。

 

【意見7】新たに3、と4の間に以下を挿入

 

4.行動計画の進捗状況を確認・評価するために、指標設定を行い、その進捗については毎年公表する

 

(理由)NAPガイダンスも、「NAPの改定は、企業に関連する人権への負の影響を防止・軽減・ 救済するために既存のNAPが実際にどの程度効果があったかについての徹底した評価に基づくべきである」とし、「実施指標」(Performance indicators)を示すよう求めている(付録2)。計画が予定通り実施されているのか、計画内容の変更が必要なのかを検討するためにも、指標設定と、公表をすべきと考える。