2017年5月に私たちは「ビジネスと人権に関する国別行動計画に対する初期提言」を出し、「指導原則」に基づくこと、透明性と参画可能性を確保することなどを不可欠の基準とした国連ワーキンググループのNAPガイダンスに基づいてNAPが策定されるべきことを要請しました(「4 資料」を参照)。
具体的には、「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づくこと、参画可能性と透明性を確保すること、ステークホルダーとの十分な協議を行うこと、ベースラインスタディを重視し内実のあるものにすること、人権への負の影響の特定とギャップの特定を十分に行うこと、負の影響に対処するための措置を十分に検討すること、そして社会的に脆弱な立場の、または周縁化された人々への視点と平等・非差別の原則を重視すること、などを要請しました。
すべてが「指導原則」及びNAPガイダンスに沿った内容であるこれらの要請は、しかし、「意見交換会」で実現されたとは言えませんでした。「multi-stakeholder consultation」と言えるような「参画可能性と透明性」が確保されたプロセスではありませんでした。「人権への負の影響の特定とギャップの特定を十分に行うこと」に耐えうるような「テーマ」設定ではありませんでした。実施してきた政府の一定の尽力を認識しながらも、こうした指摘をせざるを得ません。
同時に、幅広い市民の視点と立場を伝える自らの責任を自覚もしながら、次につなげていきたいと考えています。その意味で、「あらゆる人々がビジネスによる人権侵害から保護されなければならない、という目指すべき共通の課題を政府と共に見据えながら、国別行動計画の策定プロセスにおけるステークホルダーとしての責務の自覚」(「初期提言」)をなお持ち続けながら、NAP策定プロセスに対して改めて以下の要請を行い、今後につなげていきたいと考えています。これらはすべて、NAPガイダンスに沿った内容でもあります。
ビジネスと人権NAP市民社会プラットフォーム
2018.11.25
(注)NAPガイダンスでは「inclusiveness and transparency」に関して次のように説明している。―「NAPプロセスは、NAPの策定、モニタリング及びアップデートを含め、参画可能性及び透明性があり、影響を受ける可能性がある個人またはグループ及び関係するステークホルダーの見解や必要性を考慮するものでなければならない。これは、権利に適合するアプローチにとって中心をなすものであり、とりわけ関係するステークホルダーがどの程度 NAP プロセスに参加するかが NAP の正当性と有効性を決めるものである。」「inclusiveness」は本文でも「参画可能性」と訳しているが、一般には、排除することなく「包摂」すること、という含意をもつ。したがって、NAPの策定プロセスにおいても、単なる「参加の可能性(possibility for participation)」ではなく、ステークホルダーの「多様で公平・平等な参加」が実質的に担保され、その見解が実際に考慮される必要があることに留意する必要がある。